BLOG

焼きいも屋

この季節、空が急に暗くなってくると、どこからか聞こえてくる風物詩。
い〜〜し、や〜きいもッ やきいもッ
その声を聞くと、きゅんとなる。
僕は昔、焼きいも屋だった。

…と言っても、わずか10日ばかり。
デザイナーになる前のお話。

高校を卒業し、大学進学への意欲をなくした僕は
引きこもりを満喫した後、アルバイトをはじめる。
短期のアルバイトをくり返すうちにだんだんと刺激が欲しくなる。
おもしろい仕事、変わった仕事。
話のネタになるような、あんまりみんながやっていない仕事を探すようになった。
アルバイト雑誌をペラペラ。そこで出会った。
「焼きいも屋をはじめてみませんか!」というコピー。

面接から採用までの流れはスムーズで。
軽の1BOXが、焼きいもカーだ。
本業は全く別のその会社の社長さんが考えたその焼きいもカーには
後ろのハッチバックを開けると大きな銀色の箱…コンロがついていた。
そこに練炭を2個セットしていもを焼くのだ。
だから僕のやっていたのは「石焼いも」ではない。「炭焼きいも」。

仕事の流れはこんな感じ。
炭屋さんに行って、練炭を仕入れる。
(炭屋というものを始めて知る!)
札幌中央卸売り市場に行って、さつまいもを仕入れる。
(卸売り市場、初体験!)
焼いたいもを包むアルミホイルや包んだいもをいれる発泡スチロールを
パッケージショップで買う。
(これまた、はじめての経験!)
定額の車のリース料を払う。
(1日いくらと決まっていました。)
焼きいもの値段設定は自由。
(これは売れる!)
スピーカーから音声を出し、練り歩くのではなく
チラシを配り、ポケベルで注文を受ける。
(ポケベル!ポケベル!)
リース料さえ払えば、あとの売り上げは僕のもの。
(…)

今だと、もちろんわかります。
これってもう商売ですよね。
もうアルバイトじゃありません。
でも、二十歳の社会経験の乏しい僕にはわからなかった。
「よし!1日30本でとんとん。70本売れば1万以上だ!」
どんな計算をしていたかは覚えてませんが
(きっと、仕入れ分は計算してないですね…)
希望に燃えました!

しかし、このわずか1週間後、僕は
「やめさせてください。」と社長に申し入れます。
横で面接の時からいたお姉さんに言われました。
「キミならできると思ってたのになぁ」
ええ、僕もできると思っていました。
売れる!と思っていましたよ。
でも、売るその前に…「いもが焼けない」なんて!思ってもみなかった!

車に搭載されたコンロはでか過ぎて、練炭2つの火力では全然焼けなかった。
時間をかけて焼いたいもは、ぱさぱさでまずくて。
それでもなんとか友達や知り合いに売り歩き…
でも、それも1週間で尽きて。
1週間で4万円の赤字。
アルバイトで、赤字。
玄関には、はりきって仕入れたさつまいもの箱が並んでる。
社長に申し入れ、これでこの負担から逃れられる…
がしかし、次の社長の言葉で、あと3日続けることになるなんて。

社長:実は、3日後にテレビ取材が入ることになった。それに出てほしい!
   それから、やめてくれ。
僕:え!でも、売るお客さんがいません。
社長:それは、こっちで用意しよう。
僕:え!でも、いもが焼けません。
社長:お客さんは用意するから、キミはなんとかいもを焼いてみてくれ!
   30本もあれば、いいだろう。
   もちろん、その売り上げはキミのものだ!

こうして僕はテレビ出演することに。
晴れて辞めれることにはなったものの新しいミッションが。
今までだって1本として、まともに焼けなかったのに
30本も…どう用意すれば…

つづく

2014.12.4
Diary


交通おじさん

毎朝、こどもと小学校まで歩く。
細い道なのに車通りの多い交差点、そこに立っているのが交通おじさんだ。

実際にはおじいさんぐらいの年齢だろうけれど
ピッと伸びた背筋、がっしりした体、身長も僕より高いだろう。
凛としていて、交通おじいさんより、やっぱり交通おじさんと呼びたい。
毎朝、安心ユニフォーム(警備員の制服だろうか…)をビシッと着こなし、ヘルメットも着用。青信号になると「フピッ」と笛を吹いてくれる。「ピッ」じゃなく「フピッ」。きっと大きな音ではうるさいから、やさしく吹いているんだと思う。

毎朝「おはようございます」とあいさつをする。おじさんは笛をくわえてるので、もごもごとと返してくれる。おじさんの横で信号を待つこともあるし。赤信号だったら、横断歩道を渡らずに歩道を曲がってしまうこともある。曲がった時はなぜか、おじさんに対してちょっと申し訳ない気持ちにもなる。おじさんの守っている信号を待たなかったことを。

でも、ただそれだけ。でも、それが毎日。おじさんは安心ユニフォームとヘルメットでビシッと立っている。その上にカッパを羽織るような日も、ベンチウォーマーでユニフォームが見えない日も。たまーにおじさんがいない日はこどもと「交通おじさんいないね」って言いながら歩く。ちょっと心配になる。そしてすぐに忘れる。次の日いると、少しほっとする。

誰かが見ていることで、なまけずに動ける人がいる。誰も見ていないとさぼったり、ずるしようとする人がいる。僕がそうだからわかる。だから、交通おじさんが、交通量の多い交差点に立っていてくれるのが、とても心強い。安心できる。おじさんの横を通り過ぎる時、心の中で「ありがとう」って言う。でも、いつか直接伝えてみたいな…ってこの文章を書いていて思った。
いつも立っていてくれてありがとう。

人は、ただ通り過ぎるだけの人にも感謝されるってこと
あるんだな、と思う。

2014.12.1
Diary